<2>有料の「ニュース読み放題」サービスの可能性

■「新聞のdマガジン」は可能なのか?■

松井:
 ニュースメディアについて、dマガジンのような「読み放題の有料サービス」があれば、新聞社は一息つけるのではないかと思うが、その可能性はあるか? 実は英語では、オーストラリアのベンチャーが始めたニュースの読み比べサイト「inkl」がある。そういう「新聞のdマガジン」は可能か?

大東:
 いまデジタルでビジネスが立ち上がっているメディアが、そこに乗っかっていくべきかは、それぞれの価値観しだい。新しい小規模なメディアの入口としてアグリゲーションがあって、そこからサブスクも売れるというのがあったら面白い。dマガジンがやったら面白いと思う。

加藤手上げ2人加藤:
 ニュースの有料アグリゲーションは存在しうると思うが、新聞業界を支えるレベルになるかといえば難しいと思う。

 新聞に限らず、人と情報のあり方がだいぶ変わってきている。昔は情報に希少価値があり、情報であるだけでお金が取れたが、いまは希少性が失われた。むしろ希少なのは時間。本は15万字で1500円ぐらいだが、noteでは5000字の記事が1万円で売れたりする。なぜかというと、早く読めるから。情報の価値というより時間の価値。コンサルに近い。

 ニュースの有料アグリゲーションは、どう考えても辛いような気がする。一方で、「つけびの村」のように、調査報道でも面白いものは売れる。あるいは「読売KODOMO新聞」は良いと思う。あのようにわかりやすくまとめてくれると、ありがたい。

佐々木:
 KODOMO新聞のようにクラスタが限られていて、そこに価値を感じる人がいればお金を払う。新聞でいうと、経済ニュースということではないか。

加藤:
 地方紙も工夫次第で可能性があると思う。ニューヨーク・タイムズも言ってみれば地方紙。たとえば東京新聞は、「東京」という日本最大の都市でグローバルに通ずる名前を持っている。これはすごい価値。ウェブだけにして、英字版も作って、ニューヨーク・タイムズのような存在を目指すのもよい。

■新聞サイトの「個別記事課金」はありか?■

会場:
 個別の記事課金について聞きたい。サブスクリプションというと、月額定額課金が主流。日本の新聞社のネット記事も定額課金だが、ある特定の記事だけのために、月額課金では払いたくないと思ってしまう。今後、新聞社が個別課金をやっていくのは可能性があるか?

大東:
 あると思う。価格は内容とユーザー層によりけり。やったほうがいいというより、試したほうがいい。PDCAを回して、どういう記事がどういう価値を持つかを把握するのが重要。逆にいうと、いま広告モデルである程度の売上があるメディアが、いきなり全面的なサブスクにすると失敗する。段階として、投げ銭とかコンテンツごとの課金をやり、感触を確かめながらサブスクに入っていくのはありだと思う。既存のビジネスをつぶさずにサブスクを試すのが重要。

大東手上げ3人加藤:
 だいたい同じ意見。今まで記者のみなさんは商売を本業にしていなかったが、やってみるのが重要。「この記事が売れるのか? 滑った! ちょっと他のやり方をやってみよう」という感じで。ただ、単体の記事の売上だけで、大きなビジネスになるかというと違うと思う。ストレートニュースだけで膨大に売るのは難しい。しかし、たとえば、ロシアについて詳しい記事をまとめて、1000円で売るとかはありうる。

 効果はやってみないとわからない。よくあるのが、開発をSler(システム開発企業)に発注して、何十億円もかけてサイトを改修して、それでやったら全然うまくいかなかったというパターン。そうではなく、noteなど外部のツールを使って、まずは小さく試すのがオススメ。重要なのは、若手の精鋭で本気にコミットしてやらせること。彼らに勘所をつかんでもらう。記者の人たちが肌感覚をつかんでいくのが大事。

大東:
 だが、これは片手間ではできない。

加藤:
 そうだと思う。本業の枠組みの中で、給料の査定や昇進に響くレベルでやらないとうまくいかない。よくいろんなメディアから「noteでこの番組を売って収益化をしてみたい」と相談を受けるが、一朝一夕では難しい。それまでにお客さんとのエンゲージメントを作っていないから。しかも片手間でやっているとバレる。本気で魂を込めてやっているなというのが、お客さんには絶対見える。そのつもりでやるべき。それでも滑ることもあるが、頑張ってやる。そういうものだと思う。

<3>ニュースと記者、「読者との関係」の未来