4人横並び替え920 新聞や出版など伝統メディアの経営環境が厳しさを増すなか、デジタルメディアの収益モデルについて考えるシンポジウム「ニュースは『サブスク2.0』で甦るか?」が9月14日、早稲田大学3号館801教室で開催された。

 早稲田大学メディア文化研究所の16年にわたる活動の終了を記念したイベントで、研究所が続けてきた「メディアの将来像を考える会」の第90回例会として、デジタルメディアやサブスクリプション(定額課金サービス)の専門家らによる講演と、パネルディスカッションが行われた。

 第1部では、クリエイターのプラットフォーム「note」を運営するピースオブケイクの加藤貞顕さん、サブスク管理ツール「Piano」を提供するキメラの大東洋克(おおひがし・ひろかつ)さん、朝日新聞のオピニオンメディア「論座」編集長の吉田貴文さん、雑誌読み放題サービス「dマガジン」を運営するNTTドコモの佐々木啓悦(ひろよし)さんが講演し、それぞれの立場からサブスクリプションの現状を語った

 まず前提状況の紹介として、早稲田大学メディア文化研究所の松井正・招へい研究員(読売新聞専門委員)が、「ニュースをめぐる世界の状況」を解説した。5人の講演の要旨を紹介する。

<前提状況>世界のニュースメディア、これまでと現在…松井正・招へい研究員

◆デジタル収益化に苦しむ世界の新聞社

松井正・招へい研究員が前提状況を説明した

松井正・招へい研究員が前提状況を説明した

 世界の新聞総売上は1500億ドル(約15.7兆円)。内訳は(1)紙の販売:828億ドル(2)紙の広告:514億ドル(3)デジタルの課金:44億ドル(4)デジタルの広告:114億ドル。デジタルの収入は伸びているが、まだまだ紙の収入が9割と圧倒的に大きい。

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 ニュースメディアのサブスクリプションの数少ない成功例の一つが、NYT(ニューヨーク・タイムズ)。2010年前後は危機的な状況だったが、デジタル課金に舵を切り成功。紙の部数は90万部(2010年)から50万部(17年)へと大きく減ったが、2011年に始まったデジタル課金の登録数は、17年に220万まで増加した。現在のデジタル購読者は300万近くまで伸びている。

スクリーンショット 2019-12-15 18.29.26 世界のニュースメディアのうち、デジタルでうまく行っているのは、多くが経済紙。日本でも、日経以外は苦しんでいる。米国では地方紙の廃刊が相次ぎ、地域に新聞が一紙もない「ニュース砂漠」の広がりが懸念されている。

 

<1>noteはなぜ受け入れられたのか…ピースオブケイク代表取締役・加藤貞顕さん

◆ピースオブケイクのミッションと事業

ノートの特徴について説明する加藤貞彰さん

ノートの特徴について説明する加藤貞顕さん

 編集者の仕事で重要なのは、作家に本を書いてもらうと同時に、広めること。紙の出版の世界と違い、ウェブにはディストリビューションとファイナンスの仕組みが確立していない。そういう課題感から会社を作った。

 ミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」。noteでは、クリエイターが創作を始め、続けられるように、いろいろな仕組みを用意している。その一つが課金の仕組み。

 会社設立は2011年。現在、正社員約60人(アルバイトを含めると約70人)。その半分以上が開発者。まず、2012年に雑誌的な有料購読メディア「cakes」を開始。これは「B2C」すなわちプロの作家のコンテンツを一般向けに提供した。その後、2014年に「note」をスタートさせた。こちらは「C2C」。もともとC2Cのプラットフォームをやろうと思っていたが、B2Cから始めた。

スクリーンショット 2019-12-15 18.38.27 B2Cから始めたのは、プロとアマチュアが並存し、カルチャーやクリエイティブへの敬意を忘れない空間にしたかったから。cakesによってプロを中心としたコミュニティができたところで、C2Cのnoteを始めたため、当初からプロも本気でコンテンツを載せる場所になった。

◆noteで大ヒットする作品とは?

 今年1月の時点で、noteのMAU(月間アクティブユーザー)は約1000万人、登録会員数は約100万人。その後、かなり増えているので、現在はもっと多い数字になっている(シンポ開催後の10月1日に「MAUが2000万人に達した」と発表)。記事の投稿数は、平均で1日1万件以上。

 noteで話題になって、たくさん売れたり、書籍化されたりする例が多数ある。ジャーナリズムの領域では、フリージャーナリストの高橋ユキさんのルポ「つけびの村」が代表例。全6話で、3話目以降を100円で単発課金にしたら、大ヒット。書籍化が決まった。 

 もう一つの例が平野啓一郎さんの小説「マチネの終わりに」。毎日新聞の連載小説を10日後にnoteで無料公開。毎日3000人〜5000人が読む人気作になった。その後、書籍化されて50万部のベストセラー。今秋公開の映画にもなった。

◆「安心して創作に集中できる空間」のための設計

 noteで重視しているのは「安心して創作に集中できる空間」。そのためのアーキテクチャを考えた。ウェブは、PVを伸ばして広告で儲けるモデルが多い。PVを増やすには「悪口と嘘とコピペ」が効率的なので、それらが増えることになった。しかし、そういう空間では、安心して創作に集中できない。

 noteでは「安心できる雰囲気」を作るために、いくつかの施策をとっている。1つはランキングがないこと。ランキングがあると、どうしてもPV重視になって、激しい内容の記事や過激な見出しにしたくなる。それは本来あるべき姿とは違うので、ランキングを入れていない。ランキングがない代わりに、レコメンド(推奨)エンジンを強化することで、コンテンツとユーザーがマッチングする仕組みを作っている。

スクリーンショット 2019-12-15 18.40.27 もう1つ、noteには広告がない。しばらくの間、広告を入れるつもりは全くない。なぜなら、広告を置くと創作活動が歪むし、美観的にも望ましくないから。広告がないことでクリエイティブの質が高まるならば、そのほうが良い。

スクリーンショット 2019-12-15 18.40.36 3つ目は編集部を設けたこと。人がコンテンツを読み、ピックアップして、SNSやおすすめコーナーで推薦している。コストはかかるが、重要なこと。そのほかにも、クリエイターがユーザーにお礼を言える仕組みなど、雰囲気をよくするために、いろいろなことを実施している。

スクリーンショット 2019-12-15 18.40.44◆創作を続けられるようにするための仕組み

 創作を続けられるようにするためには、本気のコンテンツ作りが報われる環境も必要。そのために、「メディアパートナー」「お題」「イベント」「コンテンツ販売の仕組み」を用意している。

 「メディアパートナー」というのは、59の出版社やテレビ局と連携し、優れたコンテンツをメディアに紹介している。メディアに出たり、本になったりという出口を用意している。

 「お題」は、さまざまなテーマを設定して、それに関する投稿をうながす施策。企業主催のコンテストもある。また、社内のイベントスペースで「イベント」を実施して、クリエイターとファンが接点を持てる場も作っている。

 「コンテンツ販売の仕組み」は、(1)単発課金(2)定期購読(3)サポート(コンテンツの対価にお金を支払うもの)の3種類がある。課金は、クリエイターが継続的に活動していくための施策の一つ。コンテンツの9割は無料で公開されていて、すべてが課金されているわけではない。

スクリーンショット 2019-12-15 18.42.28◆noteで読まれる記事とは?

 noteで読まれる記事の傾向は2つある。「専門家がわかりやすく解説した記事」と「クリエイターの人柄に惹かれる記事」。濃い内容を売るか、人柄を売るか、と言える。

加藤横変え <わかりやすい解説記事の例>
消費文化総研 
決算が読めるようになるマガジン 
Market Hack Magazine 
<クリエイターの人柄に惹かれる記事の例>
クッキー屋を営むサクちゃんのエッセイ 
bar bossa林伸次の毎日更新日記と表では書けない話 
けんすう(ノウハウと人柄の両方) 

<2>サブスクリプション2.0は従来の月額課金とどう違うのか…キメラ代表取締役・大東洋克さん