白田さん

グラフを駆使してメディア企業の経営分析を行う白田さん

 「メディアの将来像を考える会」は2017年7月11日午後7時から、早稲田大学26号館1102会議室で第77回例会を開き、会計学者で筑波学院大学客員教授の白田佳子さんをゲストスピーカーに迎え、「財務から見るメディアの将来」と題して講演いただきました。

 白田さんはまず、経営判断の際によく使われる売上高や利益率などの数字を、「経年で見ないと意味がなく、長期的視点での企業の存続可能性を評価する指標としてはふさわしくない」と説明。利益率や1人当たり売上高についても、企業は破綻に直面すると経費削減やリストラを行うため数字が好転しやすく、誤導される可能性が高い側面を解説しました。

 特に、近年国内で注目されているROE(株主資本利益率)について、「日本企業はROEが低いとよく批判されるが、40年以上前の日本企業は20パーセント以上のROEを示していた。近年は純資産を厚くする企業が多く、その結果ROEが低くなる傾向にあるが、経営実態は良好であり、低ROEは企業破綻との相関性は低い」と強調しました。

白田さん

「総資本留保利益率を見ると、企業の稼ぐチカラがわかる」と説く白田佳子さん

 その上で白田さんは、企業の長期安定性を測る指標として、「総資本留保利益率」の重要性を強調。これは留保利益(主に利益剰余金)を総資本で割ったもので、「毎年の利益の積み上げである留保利益こそ、企業の稼ぐ力を示すものであり、企業継続性に深く関わっている」と指摘しました。白田さんは大量のデータを人工知能技術で分析する事でこの指標を抽出し、倒産予知モデル「SAF2002」を構築。世界各国で、このモデルは参照されているといいます。

 講演では、SAF2002 モデルに組み込まれた指標の中でも、特に留保利益にフォーカスして新聞社やテレビ局などの既存メディアとネットメディアを分析。「メディアは上場企業が少なく、情報入手が難しいので、あくまで限定的な分析だが…」と断った上で、財政状態を評価しました。

 まず、テレビ局では日本テレビとTBSをあげ、利益剰余金は日本テレビ3485億円、TBS2145億円と共に大きく、「企業として稼ぐ力が強いだけでなく、経営者は配当を増やして外部評価を高めようとせず、長期的視点に立って財務戦略を実施してきたことが伺える内容」と、高く評価しました。留保利益率も日本テレビが66%、TBS36%と他産業に較べても格段に高く、経営的には非常に安定していると分析しました。その一方、日本テレビは2016年度の当期純利益が前年度比87%減となり、収益も半分近くを不動産が占めるなど、やや不確定要素もあることを指摘しました。

 続いて新聞社からは、朝日新聞と日経新聞を取り上げました。朝日新聞は連結決算の利益剰余金が3080億円、留保利益率が50%とやはり高く、「株主資本のほとんどが利益の蓄積で構成されており、これまでの儲けで事業が成り立っている会社。財政状態は非常に良好だ」と指摘しました。日経新聞も同様に、利益剰余金2802億円、利益留保率47%と高い結果であることを示しました。

白田さん その上で白田さんは、メディア企業全般について、「資産に占める投資有価証券の割合が高い」と指摘。株価の変動による影響が大きく、一般企業ではここまで多額の有価証券を保有することはないとした上で、「内部留保が多いことから、ある程度のリスク対応は可能だろう」と解説しました。ただ同時に、「もう少し違った資産の使い道はないのかな、とも思う」とも語りました。

 一方のネットメディアでは、ニューズピックスを運営するユーザベースと、アイティメディアを分析。ユーザベースは2015年度決算が赤字であったため、増資により16年度は改善したものの、利益剰余金は3億7千万円のマイナスでした。増資により自己資本比率は6割と良くなりましたが、経営が厳しい状態であることに変わりはなく、外部から支援を受けるなどややトリッキーな経営だと、疑問を呈しました。また、アイティメディアも利益剰余金15億円、利益留保率2.8%と小さく、今後事業で利益を上げていかないと、継続は難しいと評価しました。

 講演後の質疑応答では、「新聞経営は安定しているとのお話だが、長期的な読者離れもあり、内部の危機感は強い。どうとらえるべきか」「新興ニュースサイトはマネタイズに苦しんでいるようだが、将来性をどう考えるか」「日本の新聞は報道の独立を確保するためか、上場していない社が多い。現状をどう考えるか」など、活発な質問が出ました。

白田懇親会.001 これに対し白田さんは、「メディアはモノの製造がなく損益分岐点も低いため、現状を見る限りそう簡単に破たんに追い込まれることはない。むしろ、何かしなくてはと焦って新たな分野に手を出すことの方に、リスクがあると思う。屋台骨はしっかりしており、財務上は緩やかに下るかもしれないが、ネット配信の読者を増やすなど既存ビジネスの線上での拡大可能性もあり、全く分野外の新規ビジネスに打って出るかは経営判断だろうが、慎重な対応が求められよう」「新興メディアは公開資料が少ないが、有価証券報告書を見た限りではかなり経営実態がひどく、ビジネスとしての継続性には疑問を感じる」「海外メディアでも、上場が独立性を阻害している訳ではない。ただし一方的に上場すれば良いとは言えない。膨大な開示資料の準備など、上場企業が負う手間とコストは大きく、現在東証などでは優良企業の非上場化がブームとなっている」と答えました。既存メディア経営の安定感と、内部にいる者の危機感のギャップが、ここでも議論の中心となりました。

 この後は、近くのレストラン「イル・デ・パン」に会場を移して懇親会が開かれ、白田さんを囲んで熱い議論が続きました。

■白田さんの経歴
 東京生まれ。女子学院高校卒業後、日本航空国際線客室乗員部で勤務。スポルディングジャパン、帝国データバンク、ヘキストジャパンなどで勤務しながら、日本大学経済学部を卒業。筑波大学大学院修士課程経営・政策科学研究科経営システム科学専攻修了。同博士課程修了、博士号(経営学)取得。財務会計を軸に日大教授、筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授、ドイツミュンヘン大学客員教授、英国シェフィールド大学客員教授などを歴任。
 非上場企業をも含めた企業の倒産を予測し、社外的損失を最小限にとどめることを目的とした企業倒産予知モデル「SAF2002」を開発。このモデルはJCR(日本格付研究所)などが内部検証用に活用。日経NEEDsも投資指標として採用している。Researchgateサイト(世界中の研究論文を相互に共有するサイト)でも1000件以上の閲覧数を記録した。
 行政関係の仕事としては、国土交通省土地鑑定委員会委員、不動産鑑定評価部会委員、国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会委員。学術関係では、アジア学術会議事務局長、日本学術会議第21期、第22期会員第一部経営学委員会委員長を歴任。現在は東京国税局土地評価審議会会長。
 著書に『企業倒産予知情報の形成』(日本リスクマネジメント学会賞)、『企業倒産予知モデル』(日本リスク・プロフェッショナル学会賞)など。