堀さん

ブロックチェーンとメディアについて語る堀さん

 「メディアの将来像を考える会」は2018年7月10日午後7時から、早稲田大学26号館1102教室で第88回例会を開き、コンテンツジャパン代表取締役の堀鉄彦さんをゲストスピーカーに迎え、「ブロックチェーンがメディアに与える影響」と題して講演いただきました。

 堀さんはまず、メディアビジネスがこの数十年間、ネットワーク技術の進化によって受けてきた影響について解説しました。インターネット上のメディアも読者への一方通行だったWeb1.0から、双方向の情報発信を特色とするWeb2.0へ移行し、今、ブロックチェーンや人工知能が基盤となるWeb3.0の時代を迎えようとしていると述べ、さらに、現在のWeb2.0の時代は、プラットフォーマーがデータの独占によってメディアビジネスを実質的に支配する時代であることを指摘しました。

 ITプラットフォームとメディアのせめぎ合いが大きくなっていることにも触れ、今年5月には欧州連合(EU)が個人情報を保護するGDPRを施行し、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォーマーの個人情報利用に、大きな制限がかかったことに言及。GDPRにより、ネットガバナンスの根本的見直しが始まり、メディアとプラットフォームの関係が次のステージに移行する可能性が出てきており、またプラットフォームはメディアなのかかどうか、ニュース、情報の責任を取るべきかかといった議論が生まれていると指摘しました。

堀 堀さんはブロックチェーンとは何かに触れて、1)第三者(仲介者)を通さずに直接取引 2)改ざん不能で取り消せない形の不可逆的な取引 3)二重支払いの防止―の保証を中核とする分散型の価値保証基盤であると説明。改ざんがなされた際にこれを検知することができ、データが正しいことを保証できるデータベースでもあるとして、その最初の実用例が仮想通貨であると語りました。そして、ブロックチェーン技術により管理者・仲介者のいない形でのコンテンツの流通が始まり、中央集権的な基盤の機能が分散型になる可能性があるとし、財務省による公文書の改ざんが行われた森友学園問題について、たとえばブロックチェーン上に公文書が保存されていれば、改ざんは起こらなかったと語りました。

会場ヨコ ブロックチェーンがメディアビジネスに及ぼす影響については、「仲介事業者を介さない取引が可能となることで決済などの手数料が安くなり、それにより記事販売のビジネスモデル多様化が進む。またデジタルコンテンツの所有権移転が容易になることから、新たなビジネスモデルが生まれる可能性もあり、それ以外にもフェイクニュースや海賊版対策などいろいろなことに使える可能性がある」との期待を示しました。

堀タテ2 ブロックチェーン技術を利用した具体的なプロジェクトとしては、本の企画ごとに仮想通貨で資金を調達し「著者への売り上げ配分比率9割」を標榜する出版プラットフォーム「Publica」、ゲームや電子書籍などデジタルコンテンツの所有権移転プラットフォーム構築をねらう「アソビモ」、ジャーナリズムのプラットフォーム「Civil Media」、グーグルなど既存のプラットフォーム・中間事業者を排除する新たなエコシステム形成を目指す「brave software」、政治問題専門のSNSで政治資金獲得も可能なプラットフォーム「PoliPoli」、ICOで数百億円を集めて話題を呼んだメディアプラットフォーム「Steemit」などのプロジェクトを挙げました。
 堀さんはまた、既存プラットフォーマー側の動きとして、アマゾンがブロックチェーンの周辺サービスの提供を開始したり、三菱UFJ銀行がMUFJコインという仮想通貨の発行を計画していることなどを紹介。これまでのシステムの中で、ブロックチェーンを活用しようとする動きもあることを指摘しました。

会場ヨコ2 最後に、コンテンツの権利や信頼性の基盤に触れ、「(ブロックチェーンによって、フェイスブックのような)SNSではなく、メディアが信頼性の基盤をリードすることに意義がある」と締めくくりました。

 講演後の質疑応答では、「ネットの評価システムでは、(記事が)芸能関係などページビューを稼げるのものばかりになるのではないか」「政治問題のSNSに政治家が大衆受けするようなことばかりを書いて、『いいね』を多く取ろうとすることには問題ががあるのではないか」「ブロックチェーンの良さは分散管理による中央集権の破壊にあるというが、一方で(三菱UFJ銀行のような)大企業がそれを利用することで権力を持とうとしているのは(その良さと)相反しているのではないか」など、活発な質問が出されました。

 これに対し、堀さんは「単純にいいね! の数を競うのではなく、複雑なエコシステム、インセンティブシステムを考える中で対応する方法もある。メディアも中長期的な評価の仕組みを開発していくべきだろう」「政治家(自身)の発言が(記録として)残ることに価値があるのではないか」などと答えました。

■堀さんの略歴
 1961年愛知県名古屋市生まれ。1984年中央大学法学部政治学科卒。1986年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。日経パソコン、日経ネットナビなどの雑誌副編集長を経て、2015年独立。現在(株)コンテンツジャパン代表取締役/(株)ブロックチェーンハブ インダストリーアナリスト。ブロックチェーンのビジネス利用のコンサルティングおよびプラットフォーム開発を手がける。
 現在、「文化通信」にて「生まれ変わる出版プラットフォーム」を連載中。