久保田さん

デジタルメディアのビジネスモデルについて説明する久保田さん

 「メディアの将来像を考える会」は2018年5月8日午後7時から、早稲田大学3号館702教室で第86回例会を開き、NHK出版の編集者でブロガーの久保田大海さんをゲストスピーカーに迎え、「紙メディアに生き残る道はあるか?―スマホ時代の生存戦略―」と題して講演いただきました。

 久保田さんはまず、縮小する紙メディアの生き残り策をメディアビジネスの側面から探る前提として、カスタマー(読者)向けのコンテンツと、企業(広告主)向けのアテンションの二つがあると述べました。

 メディアビジネスを成り立たせるモデルとして、久保田さんは購読料、広告、その他(物販、イベント、サービスなど)の3種類を列挙。アナログからデジタルへ移行するという流れの中で、主にスマートフォンを通じてコンテンツを売って購読料を稼ぐ方法については、1)「ここから先を読むにはお金が必要」という「ペイウォール方式」、2)会員登録をさせて月間の閲覧本数を制限する「メーター方式(日経電子版など)」、3)高度な機能を有料化する「機能制限方式(クックパッドなど)」、4)コンテンツを集約してゲートを作る「アグリゲーション方式(dマガジンなど)」―の四つを紹介しました。

 その上で、購読料モデルは継続的な課金が必要であり、かつ価値を常に上げていかないと解約される恐れがあることから、「アグリゲーション方式が最強である」と指摘。しかし、例えばdマガジンがコンテンツとなる雑誌を増やせば増やすほどユーザーは増えるが、月額400円などユーザーから得られる収益には上限があるため、出版社への分配金は減っていくので、紙と電子を合わせた雑誌市場全体は縮小していくと予測。市場が縮小期に入ると、業界は「垂直統合」から「水平分離」に向かい、取材や編集、印刷ごとに細かく分離・合理化されていくと述べ、結論として「メディアビジネスは購読料モデルだけでは生き残れない」と強調しました。

久保田さん 久保田さんは第2の広告モデルについては、デバイスがパソコンからスマホへ移行するにつれ、読者の目に触れるワク面積が縮小し、SNS/アグリゲーター(プラットフォーマー)がワクのファーストビューを寡占するようになると、セカンドビュー(WEBメディア)の広告価値が低下。広告の収益配分の多くを、プラットフォーマーが持っていくことになるとの見方を示しました。また、読者はどのメディアの記事かは気にしないまま、スマートニュースなどでニュースを見ており、その結果メディアが横並びとなり、良質な情報を提供するメディアのブランドが毀損されていると指摘しました。

 そして、広告はデータを情報に変換し、定式化してパーソナライズ(個別化)して届ける「フィード」へ移行しつつあると主張。フィードはデータ量が価値を生むため、ここでもやはりSNSやニュースアプリなどのプラットフォーマーが優位となり、結局「メディアビジネスは広告だけでも生き残れない」との見方を披露しました。

 久保田さんは、VRやARの本格的な普及には5~10年ほどかかるため、当面はスマホを中心にメディアを考えればよいと言明。スマホは身体の一部であり、そのアプリは何か具体的な行動をしようとしたときに開く、例えば「乗り換えアプリはヤフーを使おうと思って開くのではなく、乗り換えしようと思って開く」という点がパソコンとの違いであると説明しました。その上で、スマホはコンテンツを受動的に消費しやすいメディアであり、PCでは能動的だったユーザーの行動が、受動的になってきているとの見解を提示。スマホ時代の行動の方程式として、「B(Behavior:行動)=M(Motivation:動機)×A(Ability:能力)×T(Trigger:きっかけ)」を紹介しました。

久保田さん

出席者の質問に答える久保田さん

 久保田さんは、第3の「その他」のモデルに触れ、「サービス」が今後のメディアビジネスの主柱になるとの見通しを明らかにしました。具体的には、クロスワードパズル・料理レシピで電子版の新規有料会員40万人を獲得したニューヨーク・タイムズ(NYT、アクティビティ方式)、プロピッカーのコメントに価値を持たせて「憧れ」をつくり出し、有料会員を6万人に増やして黒字化したNewsPicks(コミュニティー方式)、ゲームごとにユーザーがつくるコミュニティーからライターを採用し、営業利益を黒字化したGameWith(コミュニティー活用方式)、「ほぼ日手帳」の物販だけで営業利益を黒字にしたほぼ日(エディトリアル方式)の四つを挙げました。

 最後に、ビジネスを生み出すフレームワークに関して、「バランスシートに載らない、不動産や有価証券以外の資産から考える」ことを提唱。NYTがクロスワードパズルが好きな人が多数いたことを発見したような「データアセット」をはじめ、「ネットワークアセット」、「スキルアセット」の三つを重視していくべきだと強調し、「紙メディアの生き残る道はさまざまだ」と締めくくりました。

 講演後の質疑応答では、「マスメディアに出していた広告をどうやってネットへ振り向けるのか。スマホになるとユーザーは受動的になるというが、釣るためのフックが必要か」「生き残るメディアの条件は何か」「NewsPicksのようにオフラインでの著名人を軸にしたコミュニティーがポイントになるのか。本来は編集者にファンを引き付けた方が良いのか」など活発な質問が出されました。

 これに対し、久保田さんは「基本的にコンテンツを作るメディアにとって、スマホ時代は有利な状況だ。質の高い情報の方が今後好まれるだろう。NewsPicksのように、よりプロが選ぶものが人気を得やすくなっている」「マスメディアは大きくなり過ぎたので、機能ごとに分離して専門家集団のようになると思う。個人がメディア業界で生き残りたいのなら、いいクリエイター、いい編集者になることが必要だ。結局、アセットのベースで最も重要なのは人だ。より専門的なメディアが強くなる可能性がある」「個人メディアの時代が続いているが、拡大の限界がある。例えば、ほぼ日という70人のチーム、一つの器にいろんな人を入れるのがメディアだ。結局、編集者、記者が何を作りたいのかといえば、みな価値を作りたいと思っている。それは1人では決してできることではなく、ならばチームでやろうというのがメディアだと思う」などと答えました。

■久保田氏の略歴
 出版社で本を編集するかたわら、ウェブサイト「KOMUGI」で記事を執筆。アカデミックな知見を交えたユニークな切り口と、わかりやすいビジネス分析に定評がある。編集を手がけたタイトルに『教養としてのテクノロジー』『ゲーミフィケーション』『ITビジネスの原理』『アマゾンと物流大戦争』『VRビジネスの衝撃』『メイカーズ進化論』など。主にテクノロジー領域の編集を得意としており、海外アジア圏への版権販売の実績多数。