望月さん

数々のスクープを連発してきた東京新聞の望月衣塑子さん

 「メディアの将来像を考える会」は2018年4月10日午後7時から、早稲田大学26号館1102教室で第85回例会を開き、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さんをゲストスピーカーに迎え、「何故、菅官房長官会見に臨み続けるのか~安倍政権とメディア~」と題して講演いただきました。

 望月さんは本社社会部や支局での取材経験を通じて、日本歯科医師連盟の一連のヤミ献金疑惑など、数々のスクープを連発してきました。まず講演の中で望月さんは、検事と暴力団の癒着問題で、司法が政権に切り込めずにストーリーありきの取り調べを行っている現状に直面したと言います。その後、防衛省の取材を進めたときは、武器輸出や軍学共同の危険性を告発し、取材先などからの妨害にさらされたそうです。2017年からは国有地売却に絡む森友学園問題に続き、獣医学部新設に絡む加計学園問題が噴出。森友問題取材チームに加わりました。

望月さんは加計学園問題を告発した文部科学省の前川喜平・前事務次官へのインタビューがきっかけで、「政権にただしてみたい」と上司に頼み込み、政治部記者が主体の官房長官の会見に出席するようになりました。

 また、その直後、元TBS記者から性的暴行を受けたと告発したジャーナリストの伊藤詩織さんにもインタビュー。性犯罪被害者が泣き寝入りしなければならない現状を見て、この件についても記者会見で菅官房長官を問いただし、注目を集めました。

 元TBS記者は不起訴となりましたが、海外メディアはこの問題を大きく取り上げました。望月さんは「見えない権力に立ち向かっている二人の姿を見て、傍観者ではいられない」と考え、官房長官への質問攻勢を始めたと話します。

森友・加計の両問題で「裏にある事実を掘り起こしたい」と語る望月さん

森友・加計の両問題で「裏にある事実を掘り起こしたい」と語る望月さん

 最初の官房長官会見出席から10か月。森友学園問題では文書が改ざんされていた事実が発覚し、加計学園問題では官邸の強い関与を示す内部文書が見つかりました。自衛隊の日報問題や裁量労働制に関する調査データの不備も含めて、望月さんは「記者会見の発表は、当局に都合のいい事実だけ。その裏にある事実を掘り起こしたい」との思いを強くしていったとのことです。安倍政権においては、幾人かの首相補佐官がこうした問題で主役を演じ、政権を支えていることを示唆しました。

 民主主義の根幹を揺るがすような、公文書を巡る問題について、望月さんは第三者による検証の必要性を説きます。「国民の声に耳を傾け、第三者を交えてしっかりと調査し、国民に報告しなければ安倍政権は崩壊に向かっていくのではないか」と述べました。

観客 最後に望月さんの主要テーマである防衛問題について、平和を守る観点から現政権への批判を展開しました。憲法9条に自衛隊を明記する改憲案を唱え、道徳を重んじ愛国を鼓舞する教育への疑問。2018年度の防衛省予算は過去最高を更新、巡航ミサイルの導入や護衛艦「いずも」の空母化など攻撃型装備に舵を切り、軍産複合の進む米政府からの武器購入実績は膨らむ一方で、日本が米軍と一体化していると危惧します。

 日本はさらに、「武器輸出三原則」を「防衛装備移転三原則」と改め、中東・アジア各国での武器ビジネスに乗り出していることを指摘。「憲法9条には近代西洋が編み出した人類の叡智が詰まっている。そもそも憲法とは権力者が個人の自由、尊厳を奪うのを防ぐためにある」と近代立憲主義の定義を説明し、「メディアは第二次世界大戦時、権力に踊らされて翼賛的になった反省から、時の権力とどう相対し、国民のために何を報じていかなければならないかをもう一度考えなければならない」と強調しました。

望月ヨコ2 講演後の質疑応答も活発に行われました。「記者会見でなぜ厳しい質問がほかの記者から出ないのか」との質問に、望月さんは「常に政権に密着している記者クラブ内には微妙な予定調和の感覚があり、メディアの社内には政治部と社会部といった垣根も存在する。長期政権のなかでは異論を挟みにくいといった諦め観もあるようだ」「記者会見の空気を変えていかなければならない」と応じました。望月さん自身、「子育ての間は夜討ち朝駆けができない現実もあった。今やネットでも記者会見の模様が伝えられる時代。世の中の人々がおかしいと思っていることをストレートにぶつけていない、との思いもあった。聞くべき場できちんと聞かなければ、マスメディア不信を拭えないと感じている」と話しました。

 ジャーナリストを目指す若者に対しては、「学生時代にジャーナリズムとは何かを学んでほしい。政権の代弁者になるのではなく、批判的に書ける記者になってほしい」とエールを送りました。

■望月さんの略歴
 1975年、東京都生まれ。東京・中日新聞社会部記者。慶応義塾大学法学部卒業後、東京新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の報道をスクープし、自民党と医療業界の利権構造の闇を暴く。経済部記者などを経て、現在は社会部遊軍記者。防衛省の武器輸出政策、軍学共同などをメインに取材。著書に『武器輸出と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(共著、あけび書房)。二児の母。