吉良さん

マンガデザインプロデューサーの吉良俊彦さん

メディアの将来像を考える会の第70回例会が1213日(火)午後7時から、早稲田大学26号館1102会議室で開かれました。日本が得意とするコンテンツであるマンガをデザイン化して、広告ビジネスに生かす「マンガデザイナーズラボ」のマンガデザインプロデューサーを務める吉良俊彦さんをゲストスピーカーに迎え、「広告0円の世界とマンガデザイン」と題する講演をしていただきました。

電通出身の吉良さんはまず、マスメディアの現状を憂えます。今年の米大統領選や英国の欧州連合(EU)離脱を巡る国民投票で、マスメディアが有識者や若者の多い大都市部の投票傾向に捉われた結果、その予測を完全に外した事例を挙げました。マス4媒体が力を失い、若者にアプローチできない時代になったとし、その背景には世界全体が「老人国家」化し、老人が若者の将来を考えずに自分たちの利益のみ追求する政策判断を行う現実があるとして、「この傾向をメディアに関わるだれもが気づいていない」と厳しく指摘しました。

さらに、メディア鎖国状態に置かれた日本の現状についても言及し、「日本は新聞からテレビ、インターネット、スマートフォンに至るまで、世界につながるメディアを作ったことがない」と断じます。しかし、日本の誇るコンテンツとして世界に広げられる可能性を秘めているのがマンガであり、「言語を通さず、世界のだれもが見るだけで理解できるマンガこそ、独自のスタイルで日本の情報を発信し、新しい時代を切り拓くことができる」として、日本のメディアの将来像をマンガデザインに託すべきだ強調しました。

吉良さん

マスメディアが予測を大きく外した米大統領選について説明する吉良さん

その上で、若者の数が減少し、労働人口が減ることによる経済力減退の補填は、インバウンド需要に頼るしかないと説明。政府のクールジャパン戦略のもとでも、高い版権料など難題は横たわるものの、マンガの手法をグラフィックデザインに応用し、複合的なメディアとして「マンガデザイン」というジャンルを確立すれば、日本にとって有効なキラーコンテンツになると主張しました。マンガは情報伝達力、ストーリー訴求、キャラクターの確立に優れ、これをデザインに取り入れることで、広告モデルとしてコミュニケーション効果を最大化できると強調。究極の目標は「ノンバーバル・イズ・ワールドワイド(無言語こそ世界につながる)」であるとしました。

吉良さんによると、マンガデザインは個々の力をつなぎ合わせるビジネスモデルで、自己完結する漫画家と違って、社員や外部デザイナーによる総合的な力で、従来のメディアの枠を超えたオリジナルクリエイティブ手法を可能にするといいます。基本的にキャラクターやストーリーを自由に設定することができ、キャラクター版権に縛られず2次利用コストがかからないのが強みで、著名漫画家の作品に版権が生じることはあっても、あくまでマンガやストーリーは自社で手がけるとのことでした。

さらに吉良さんは、これまでに手がけた「マンガデザイン」の実績・事例を紹介しました。ウェブを中心として、日本政府に要請されての海外での文化発信、各種イベントのプロモーション、企業の広報ツール、ゲームコンテンツ、新聞・雑誌・書籍など出版物における展開と、活動は多岐に及んでいます。浮世絵など日本の伝統文化もふんだんに盛り込まれ、その画力は日経広告賞などを受賞するなど、高く評価されています。

吉良さんマンガデザイナーズラボは来年度は文化庁と組んで、「マンガデザイン」を採り入れた新たなプロジェクトにも参加する予定です。視野にあるのは中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)での展開であり、大学で教鞭もとる吉良さんは「日本はオリジナリティをもっと発揮しないと、世界に太刀打ちできない。メディアを複合的に横断するコンテンツ戦略が必要」と、創造力の磨き方を若者に伝えることに心を砕いています。また、2020年の東京五輪を、芸術・文化においても人材育成の好機と捉え、日本の若者の底力に期待しているとのことでした。

講演後の質疑応答では、「作品の質をどう維持するか。また、個人の作品として売り出さなければ良い人材が集まらないし、育たないのではないか」との質問に、吉良さんは「何案か出してクライアントに判断を任せるなど、作品の質の向上には常に努めている。マンガとデザインを差別化して、個人の力でマンガを書きたい人にはその余地を残している」と応じました。また、旧来のメディアとしての新聞の将来性についても質問が相次ぎ、これに対しては「グローバル時代に逆にローカルな情報への需要は増えるので、地方を的確に戦略に組み込む方向へシフトすべき。新聞社が全国に持つ販売店網は伝統的な底力で、地方創生と連動してイベントを企画するなかで、地方をマンガで分かりやすく紹介する道もあるのではないか」と提案しました。

講演・質疑の後の懇親会を26号館のレストラン「森の風」に移して開催、「マンガデザイン」への期待などについて議論が長く続きました。

吉良氏の略歴 上智大学法学部卒業後、株式会社電通に入社。クリエーティブ局、営業局を経て雑誌局へ。幅広い分野の企画プロデュースを行う。2004年にターゲットメディア・ソリューション、2011年にはマンガデザイナーズラボを設立。総合プロデューサーとして「マンガデザイン」による広告のプロデュースを手掛け、日本の文化であるマンガをビジネスに活用。広告電通賞審議会選考委員、大阪芸術大学デザイン学科客員教授、日本女子大学講師、イベント業務管理士一級。著書に「ターゲットメディア・トルネード」、「嘘の破壊」、「情報ゼロ円。」、「広告0円」など多数。