新田さん

ネット論壇の変化について語る新田さん

 「メディアの将来像を考える会」の第69回例会が11月8日午後7時から早稲田大学26号館1102会議室で開かれ、インターネットの「言論プラットフォーム・アゴラ」編集長、新田哲史さんをゲストスピーカーに迎え、「ネット言論最前線からの報告」と題して講演いただきました。

 新田さんはまず、アゴラの2009年創刊に至った経緯について、当時の日本のネット空間では匿名の情報が幅を利かせ、実名制の信頼できる言論サイトがないことに危機感を持ったライブドア社(当時)の田端信太郎氏(現LINE上級執行役員)の提案がきっかけだったと紹介。経済学者の池田信夫氏がオーナーとなって、米ハフィントンポストをモデルにオピニオンブログによるサイトを作り、レギュラー陣が自由に投稿できるシステムでスタートしたといいます。

 アゴラの収入構造は、アクセス(ページビュー=PV)数に応じた広告収入と「アゴラ経済塾」などの講座・セミナーによる収入の二本立てだが、「経営は楽ではない」と明かしました。新田さんが編集長に就任した15年10月当時のPVは月間300万程度だったのが、今年9月には初めて1000万PVを突破。執筆者も約200人に増えたということです。

 新田さんは、ネットメディアの台頭により、“世論ゲーム”のルールが変わったと指摘し、その例として7月の東京都知事選を挙げました。都知事選では小池百合子氏の対抗馬として増田寛也氏が自民党などの推薦で立候補しましたが、ブロガーの山本一郎氏らがヤフーニュースなどで「増田氏は岩手県知事時代に借金を2倍にした」「総務相のときに東京都に入るはずだった交付金2000億円を地方に回した」と批判。元都知事の猪瀬直樹氏も経済ニュースアプリ「NewsPicks」のインタビューで「都議会には(自民党の)ドンがいる」と告発しました。新田さんは、一般紙やテレビではあまり取り上げないこれらの話題をネットメディアが取り上げて口コミなどで広がり、小池陣営がこれをうまく使って勝利に結びつけたとの見方を示しました。

 従来は候補者自らが発信する形だった選挙戦のゲームが、都知事選では第三者が発信する情報がより重要になる形に変化。スマートフォンの普及を背景に、テレビ・新聞などの既存メディアと、情報源として成長したネットメディアとの連動を意識した統合型マーケティングの時代に入ったとの認識を披露しました。

新田さん

アゴラが目指すものなどについて、活発な質疑が繰り広げられた

 また、民主党代表選では蓮舫氏の二重国籍問題が争点の一つとなりましたが、新田さんによると、八幡和郎氏(徳島文理大教授)が「日本国へのロイヤリティーがあるのか」とアゴラに投稿したのを受けて、夕刊フジや産経新聞がこれを取り上げて問題が表面化。さらにネットユーザーが、「自分は台湾籍」などと話していた蓮舫氏の過去の記事を指摘し、池田氏が、台湾政府の官報サイトの国籍離脱者の名簿欄に蓮舫氏の名前がないことを突き止めたのも、ネットユーザーからの情報提供がきっかけだったということです。新田さんはこのケースについて、八幡、池田両氏らプロの知見がきっかけとなり、一般のネットユーザーの情報収集力・調査力が自律分散・自然発生的に機能したと指摘。「ネット時代の調査報道の新しい形かもしれない」と述べました。

 講演後の質疑応答では、「メディアとして何を目指すのか」「具体的な経営状態やスタッフの数・体制は」など多数の質問が出ました。これに対し、新田さんは「新聞・テレビが公平性とかに縛られて立ち回りにくい領域を触れていくのがアゴラの立ち位置。一つの問題に関しアゴラ上で激論になるのが理想像だ」「経営は楽ではないが、都知事選と二重国籍問題の“バブル”で、今年の業績は間違いなく上向き。正社員はおらず、3人のスタッフは私も含め業務委託。人件費を抑えたスモールビジネスだ」などと答えました。

 講演・質疑の後は、26号館のレストラン「森の風」に場所を移して懇親会を開催、ネットメディアの在り方などをテーマに議論が続きました。

■新田氏の略歴 1975年生まれ。2000年、早稲田大学法学部卒業 。読売新聞記者(運動部、社会部等)、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画し、東洋経済オンライン、現代ビジネス、アゴラ等のネットメディアにも寄稿。2015年10月、アゴラ編集長に就任後は数々のリニューアルを仕掛け、都知事選や蓮舫氏の二重国籍問題で注目を集める。アクセス数は約3倍の1,000万PVとなり、大手メディアの一角に成長させた。2016年9月、株式会社ソーシャルラボを創業(兼務)。著書には、自らの独立体験を元にネット時代の若者のキャリア戦略・情報収集術を説いた「ネットで人生棒に振りかけた!」(アスペクト)。 12月にはネット世論と政治をテーマにした2冊目の単著が刊行予定。