渡辺周さん

ワセダクロニクルの渡辺周・編集長

 「メディアの将来像を考える会」は2017年10月10日午後7時から、早稲田大学26号館1102会議室で第79回例会を開き、早稲田大学ジャーナリズム研究所の調査報道プロジェクト「ワセダクロニクル」編集長の渡辺周さんをゲストスピーカーに迎え、「沈黙する既成メディア/ペンはパンに負けるのか」と題して講演いただきました。

 渡辺さんはまず、ワセダクロニクルが17年2月から始めた創刊特集として、共同通信が特定の医薬品を売り込む記事を配信し見返りに電通側から報酬を受け取っていた「シリーズ『買われた記事』」を取り上げた理由について、「メディアの不祥事としてではなく、患者を犠牲にするシステムを追及するためにやった」と説明しました。

 「買われた記事」の主な“主役”である電通、製薬会社、共同通信、その加盟社である地方紙の中でどこが一番悪いのかについては、「このシステム自体がおかしい。カネを入れると、カネまみれの記事が出てくる」との考えを示しました。取材をしてみると当事者が皆あまり悪気がなくよくしゃべったこと、罪の意識のようなものを感じなかったことなどを挙げ、「システムの中でちょっとずつ罪悪感が薄れているのではないか」と指摘しました。

 次いで、最近まで所属していた朝日新聞社時代に、医師が製薬会社から講演料・原稿料として多額の「謝礼」を受け取っていたことをスクープした際の経験を披露。記事を出す際に社内から異論が出てなかなか決まらず、議論が延々と続いた末にやっと記事が載った経緯などを明かした上で、「(今の)朝日で『買われた記事』のようなネタをつかんだ場合、たぶん載らないだろう」との見方を示し、朝日新聞社ではできないことをワセダクロニクルでやりたいとの考えを示しました。

渡辺さん ワセダクロニクルが「買われた記事」を配信した後、共同通信は「業務に関わることなのでお答えできません」と取材に応じなくなり、地方紙も「共同通信の配信した記事だから」と沈黙しているといいます。渡辺さんは地方紙の対応に「もう少し共同通信に『ふざけるな』と怒ると思ったが。がんじがらめになっているのでは」と述べました。

 また渡辺さんは、他の新聞・テレビに対しても、共同通信の幹部が労組に今回の事態を認めた際など後追いのタイミングがあったのに動かず「完全に沈黙している」と傍観的な姿勢を批判しました。

渡辺さん

「広告モデルは限界にきている」と語る渡辺さん

 報道機関が存続するためのビジネスモデルについては、記事か広告か分からないネイティブアドのようなことをやっていると先細りになるしかないのではないかとして「広告モデルは限界がきている」と断言しました。そして世界各国の非営利の調査報道団体の財源モデルに触れ、1)韓国の「ニュースタパ(打破)」は4万人の会員の寄付だけで成り立っている 2)米国は「プロパブリカ」などへ財団から大口の寄付がある 3)台湾でも「編集に一切口を出さない」と宣言して寄付をする仕組みがある―などと紹介しました。

 最後にワセダクロニクルの運営について、クラウドファンディングでとりあえずスタートし、350万円の目標が500万円以上集まったとした上で、「今のところは給料も出ていない。基本的には寄付モデルでいきたい」と寄付会員を幅広く募っていく考えを示しました。報道姿勢に関しては「質の高いものを出していくしかない。組織の維持のために妥協することはないようにしたい。毎日、一発勝負で腹をくくって、こけたとしても仕方がない」と決意を語りました。

 講演後の質疑応答では、「寄付をしている人は何人ぐらいか。スタッフの数は何人か。記事は何本出しているのか」「新聞社の将来はどうなるか」「メディアにとってどういう形、将来像がいいと思うか」など活発な質問が出ました。

渡辺さん これに対し渡辺さんは「クラウドファンディングは340~350人。寄付会員はまだまだこれからだ。スタッフは25人。フルでやっているのは3人ぐらいで、あとは兼業。学生はうち10人弱だが、危険な取材はさせない。記事はまだ9本。今度10本目を出す。遠くない時期に新シリーズも出していけると思う」「新聞社は(1社で)2千何百人の記者を配置できるのか。人員を削減しなければならない。最終的には買収されて、アマゾンとかの報道機関として残るしかない。または(新聞社同士が)合併するとかしてやっていくしかない」「小さなメディアでも大きな仕事はできる。ただ、リーガルチェックは相当気を付けてやっている。将来的には一番理想的なのは、テーマごとにいろんな(メディアの)組み合わせがあっていい。共同通信と一緒でもいい。問題は日本の場合、会社の枠組みを超えてやることはあまりないことだ。新興メディアも含めてもっと横の連携があった方がいい」などと答えました。

■渡辺氏の略歴
 1974年神奈川県生まれ。大阪府立生野高校、早稲田大学政治経済学部を卒業後、日本テレビに入社。2000年から朝日新聞記者。特別報道部などで調査報道を担当する。
 高野山真言宗の資金運用や、製薬会社の医師への資金提供の実態などを報じたほか、原発事故後の長期連載「プロメテウスの罠」取材チームの主要メンバーとして、高レベル核廃棄物をテーマにした「地底をねらえ」などを執筆した。
 大学を拠点にした調査報道プロジェクトの立ち上げに伴い、朝日新聞社を2016年3月に退社。同プロジェクトの発信媒体「ワセダクロニクル」の取材・報道の総責任者(編集長)に就く。
 趣味はマラソン。普段は100kg超ある体重を、フルマラソンでは92kgまで落とし、4時間20分台で完走する。