畑尾さん

新聞販売の歴史と未来について語る畑尾一知さん

 「メディアの将来像を考える会」は2017年1月10日午後7時から、早稲田大学26号館1102会議室で第71回例会を開き、元朝日新聞社販売局の畑尾一知さんをゲストスピーカーに迎え、「販売面から見た新聞の未来」と題して講演いただきました。

 畑尾さんはまず、独占的ニュース供給者としての優位性を背景に隆盛を極めた20世紀の新聞産業について、その成功は「大部数」と「高価格」で説明できると述べました。朝日新聞を例に挙げ、1900年から2000年までの100年間に部数は19万部から44倍の829万部に増加。一般の物価がその間に3919倍になったのに対し、新聞代は11894倍と約3倍も高くなっており、一般の物価を上回るペースで値上げしてきたことを明らかにしました。

 新聞の高価格は、業界の寡占化を背景とした三大紙による同調値上げと、専売制・テリトリー制や著作物再販制度を背景とした販売店による定価販売の徹底によって可能となり、これにより新聞社の経営が安定したとの見方を示しました。

畑尾さん

新聞販売の構造について説明する畑尾さん

 世紀の変わり目ごろからインターネットの登場もあって新聞の優位性が揺らぎ、経営がピンチに陥っている現状に関しては、「20世紀の空前の成功が消費者不在、高コスト化を招いた」と指摘。デジタル化への模索に触れて「日経は例外として有料のデジタルを読む人はそう多くはならず、デジタルで新聞社が生き残るのは困難だと思う」との見通しを示しました。また、一部の新聞社が本業とは関係ない新規事業に乗り出していることにも「成功はしないと思う」と厳しい評価を下しました。

 デジタルの世界では米大統領選に絡むフェイクニュース騒動などでニュースに対する不信感が生じているとして、これからは安定した紙の新聞の情報が見直されるとの見解を表明。紙とデジタルがそれぞれの特長を生かし共存する未来を念頭に、「500万、600万は難しいが、50万でも100万でも安定した部数で発行し続ける紙の新聞を維持していくことが大事だ」と強調しました。最後に、新聞が生き残るためには低コスト化を断行し、品質も良くする必要があるとした上で、「(第3代米国大統領の)トーマス・ジェファーソンが『私は政府なき新聞を、新聞なき政府より好む』と言っている通り、『フリープレス』は紙の新聞であり、今も変わらない」と締めくくりました。

 講演後の質疑応答では、「国会で読売の渡辺恒雄氏が『販売店がつぶれると新聞が半減する』と述べたが、どう考えるか」「低コスト化が必要というが、具体的にどこに無駄があるのか。適正部数はどれぐらいか」「結論は『紙』とおっしゃるが、そうは思えない」など活発な質問や意見が出ました。

畑尾全景 これに対し畑尾さんは、「宅配とセットでない新聞は基本的に売れない。朝、家に来るから読むことが習慣化している。それ以外ではうまくいかない。工夫次第で配達のコストを下げ、宅配を維持することは可能だと思う」「人件費がすごく高い。部数が減っているので、低くするしかない。そうしていけば世の中の流れも変わってきて、経営努力も評価される。部数は50万から100万で十分ではないか。ニューヨーク・タイムズもそうだ」「過去に戻るのは無理だが、地味でもキラッと光る程度に甘んじてやっていくということ。また盛り返してルネサンスというのは難しい。小さいけれど重要な役割を担うという路線だ」などと答えました。

 講演・質疑の後は、大学近くの中華料理店に場所を移して懇親会を開催。新聞の現状と将来について熱心な議論が続きました。

■畑尾一知氏の略歴 1955年2月兵庫県生まれ。1973年東京大学文科Ⅲ類入学、1977年東京大学文学部卒業、朝日新聞社入社、販売局に配属。東京本社、北海道支社、ロンドン・ニューヨークで勤務。販売局流通開発部長、販売管理部長、販売担当補佐などを歴任。2015年2月定年退職。
著書に「新聞販売と再販制度」(創英社、三省堂書店)