メディアの将来像を考える会の第67回例会が、7 月7日午後6時30分から早稲田大学26号館1102会議室で開かれ、日本のネットメディアを草創期からウォッチしてきた博報堂ケトル共同CEOの嶋浩一郎さんを講師に迎え、「ネットニュース20年史とその課題」と題して講演いただきました。

嶋さんヨコ1 嶋さんはまず、スマートフォンとネットニュースは現代人になくてはならないものになったとして、ネットニュース20年の歴史とその生態系の仕組みを理解することが重要だとの認識を示しました。その上で、ご自身の問題意識として、1)コストのかかる一次取材の価値を、特に若い層が理解していない 2)ネットにおいて戦後、新聞などが依拠してきた「電通吉田モデル」(広告モデル)に代わる新しいマネタイズのモデルがつくれていない——の2点を挙げました。

 ネットニュースの歴史について嶋さんは、1996年~2008年までの「黎明期」、08年~12年までの「ソーシャルメディアの時代」、12年以降の「スマホの普及時代」の3つのステージに分けました。

嶋浩一郎さん

ヤフーとメディアの関係を「島田紳助とひな壇芸人」になぞらえる嶋さん

 第1期(黎明期)は96年のヤフー・ニュース誕生により、パソコンでニュースを見る時代が幕を開け、ヤフーがプラットフォームとなりニュース提供メディアにページビュー(PV)を分配する状況が定着したとの見解を示しました。特に98年のヤフートピックス開始以降は、「ニュースを見るならヤフー」との風潮が強まり、ヤフーによる寡占化が進行。自らは記事を作らないヤフーに、記事を提供する新聞社・通信社が依存する状況を「島田紳助(ヤフー)とひな壇芸人(ニュース提供メディア)」にたとえました。

 ヤフーが選ぶ記事が多く読まれ、ニュースの決定権をヤフーが握ったこの時代には、ニュース提供メディアがヤフーに記事を配信し、関連記事を読むためのPVが戻ってくるという、記事とPVの交換の仕組みが定着。ネットメディアのマネタイズモデルは、バナー広告を掲載する「PV換金モデル」が主流になりました。しかし、これはPV獲得を最優先にした「釣りタイトル」が横行するなどの弊害を生みました。また、PVの単価が「1PV=0.1円」などと非常に低いことから、低コストでニュースを集めて魅力的なページを作り広告収入を得るヤフーと、低価格で記事を提供した新聞社などとの間に、収入格差を発生させることになりました。

嶋さんタテ 嶋さんによると、第2期はツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアの出現により、ヤフーでニュースを見るだけでなく、タイムラインでニュースを見るようになった時代です。この時期に、ヤフーへのニュース配信に距離を置いていた出版社が参入。小学館の「NEWSポストセブン」の成功に他の出版社も追随し、紙の編集者が「紙文脈」と「ネット文脈」の違いを理解し始めたといいます。同時にバイラルメディアの氾濫が起き、コピペなどの横行も課題として残りました。

 第3期はスマホの普及に伴いアプリでニュースを読む時代で、プレーヤーとしてはスマートニュースやグノシー、LINEニュースなどが登場し、ヤフーによる寡占状態を崩しつつあります。新聞社などにとっては、記事の配信先が増えPV獲得の機会は増えましたが、その一方、ヤフーは「映像トピックス」を作って映像ニュース配信に新たな商機を見出そうとしています。ネットニュースはヤフー、スマートニュース、LINEニュースの3強時代へと移りつつあると、嶋さんは強調しました。

 今後の課題として嶋さんは、1)PVの換金と新しい広告形態であるネイティブアドで、新聞社などが一次取材コストを賄うことはできない 2)ヤフーなどのプラットフォームと新聞社などのニュース提供メディアの利益配分が非対称(プラットホーム側に偏っている)である 3)一次取材の意味の希薄化ーーの3点を指摘。紙メディアがネットに移行した際に、一次取材のコストをどうマネタイズするかは依然として解決されていない難しい課題だと締めくくりました。

 講演後の質疑応答では、「PVに代わる新しい指標は何か」「今後ヤフーなどのネットメディアが一次取材力を持つことはあり得るか」など、多数の質問が出されました。これに対し、嶋さんは「広告主の意識改革が本当に大事だ。メディア側と広告会社、広告主の3者で新しい仕組みを作らないと、立ち行かなくなる」「携帯企業などプラットフォームの運営会社が、新聞社を買収することも十分あり得ると思う」などと応じました。

 講演・質疑の後は、26号館のレストラン「森の風」に場所を移して懇親会を開催、ネット時代の新聞社のマネタイズなどをテーマに議論が続きました。