「メディアの将来像を考える会」は2017年2月14日午後7時から、早稲田大学26号館1102会議室で第72回例会を開き、音楽ジャーナリストの柴那典(とものり)さんをゲストスピーカーに迎え、「音楽ビジネスはメディアをどう変えたか」と題して講演いただきました。

柴さん 「ヒットの崩壊」(講談社現代新書)の著者である柴さんはまず、ヒットの何が崩壊しているのかに関して、ヒットの基準の崩壊、ヒットの作り方(方程式)の崩壊、世代による分断(「国民的ヒット曲」がなくなった)、ビジネスモデルの変化の四つの側面を挙げました。

 1990年代までは、CDが売れることがすなわちヒットであるという分かりやすい基準があったが、昨年ヒットしたピコ太郎の「PPAP」はシングルCDとして発売されておらず、従ってオリコンチャートにも入っていないとして、「記録と記憶がイコールではなくなっている」と指摘しました。

 ヒットの作り方についても、かつてはマスメディアへの大量露出が方程式だったが、現在はそれが必ずしも成立せず、予測不能になっていると強調。PPAPのヒットについて「かなり偶発的なまぐれ当たりのようなヒットで、再現するのは不可能だ」との見方を示しました。

 また、90年代以前は「およげ!たいやきくん」のような「国民的ヒット曲」は老若男女のものだったが、90年代以降は徐々に、例えば20代だけのヒット曲、若者だけのヒット曲が生まれ、上の世代はそれを知らないという状況が現れてきたと述べました。

柴さん ビジネスモデルに関しても、CDのような「パッケージ」は売れなくなり5年前ごろまでは「音楽不況」と言われてきたが、実はそうではなかったと指摘。現在は「人はモノより体験、コンテンツよりコミュニケーションを求めるようになってきて」おり、ビジネスモデルがライブ中心のものに移行したとの見解を示しました。音楽ソフトの売上高は減っているものの、音楽ライブ関係の売上高は増えており、両者を合わせるとこの15年間ほぼ変わっていないことを三つのグラフで示して、「『音楽不況』と言われてきたのは、単に『パッケージ不況』だった」と断じました。

 続いて、2011年からテレビで生放送の大型音楽番組が増えたことを挙げて、「生放送の音楽番組がフェス化している」「リアルタイムの時代がメディアに起きている」との仮説を提示。アイフォンをはじめとするスマートフォンの普及とツイッターなどのソーシャルメディアの出現により、人々の姿勢がこれまでの「受動」型から「介入」(参加)型に変化したとの見方を披露しました。

柴さん 90年代はメディアから人々に「熱」が伝わったのに対し、10年代は現場の「熱」がツイッターなどで人々に伝わり、可視化され、それによってメディアが現場の「熱」を拾う形に逆転したと語りました。その結果、「マスメディアが川下へヒットを送りつけた」モデルが、「それぞれの現場で盛り上がってニッチなヒットがたくさん生まれている」形になり、国民的ヒット曲が生まれない構造に変化したと解説しました。

 オリコンのヒットチャートでこの5年間のトップファイブ25曲のうち23曲をAKB48が占めているのに対し、JOYSOUNDのカラオケランキングではAKB48は25曲中3曲にとどまっていることを紹介し、「今の若い人が後になって流行った曲を思い出せるのはカラオケの方だ」と話しました。

 今後は匿名の人々、名もなき人々の「熱」がツイッターのリツイート数などの形でビッグデータも含めて可視化され、そうした人々の行動の集積がヒット曲を再定義していくのではないかと予測。最後に「音楽ジャーナリズムはよりデータジャーナリズムになっていくのではないか。(それが音楽ジャーナリストにとっての)これからの課題だと考えている」と締めくくりました。

 講演後の質疑応答では、「いわゆる『360度契約』の日本での展望はどうか」「テレビはコンテンツ販売をしながら事業もしているが、新聞・出版はどうすればよいか」「ピコ太郎(の出現)はどういう意味を持つのか」など活発な質問や意見が出ました。

 これに対し柴さんは、「音楽のマネタイズでは基本的にコンテンツよりも人(スター)だと思う。大スターでなくても人が生身で稼いでいくモデルだ」「書店の価値は実は大きくなっており、コミュニティーメイキングの機能がある」「新聞というメディアは、一面がモンスターヘッドで中面はロングテールだが、(今後は)1万人から5万人ぐらいのミディアムボディーの人々が共有する情報コミュニティーが有効なのではないか」「ピコ太郎の源流は川上音二郎のオッペケペー節。お笑いと音楽の融合は昔からあったが、ピコ太郎が一発で終わっても、新人を発掘して軍団にできたら面白いことになる」などと答えました。

 講演・質疑の後は、26号館のレストラン「森の風」に場所を移して懇親会を開催。柴さんを囲んでの談笑が続きました。

■柴氏の略歴 1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、ウェブ、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA.NET」「MUSICA」「リアルサウンド」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」と「フジテレビオンデマンド」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談「心のベストテン」連載中。新刊『ヒットの崩壊』
※ブログ:「日々の音色とことば」