岩田さん

「かつてないほど強化された」と現在の日米関係について語る岩田さん

「メディアの将来像を考える会」は2018年2月13日午後7時から、早稲田大学26号館1102教室で第83回例会を開き、NHK解説委員の岩田明子さんをゲストスピーカーに迎え、「正念場を迎える安倍外交」と題して講演いただきました。

 岩田さんは、第2次安倍政権で首相は「地球儀俯瞰(ふかん)外交」を掲げ、延べ135カ国を訪問してきたが、その意味と今後の課題を展望したい」と切り出しました。

 岩田さんは中曽根康弘首相や小泉純一郎首相を例に挙げて、これまでの日本の外交は同盟国・米国との「近さ」で測られてきたと指摘。安倍首相は強固な日米関係を築いた上で、国際社会の中でルールメーカー(秩序を作る勢力)としての役割を果たすことを目指しているとして、今後これができたかどうかが厳しく評価されることになると述べました。

 オバマ大統領時代の日米関係については、第2次安倍政権発足当初は米側の不信感が根強かったものの、最終的には大統領の広島訪問、首相の真珠湾訪問が実現するまでに昇華したと評価。特に2016年11月のリマでのAPEC首脳会議の際の日米首脳会談では、15分の間に「真珠湾に一緒に行く」ことを決めるほど、両者の関係は深まっていたと語りました。

 現在のトランプ大統領と安倍首相との個人的信頼関係について、岩田さんは「かつてないほどに強化された」との見方を披露。北朝鮮問題に関しては、大統領自身も対話を示唆するなど振れ幅が割と大きいとの印象を語り、日本側は米国内でどのような議論がされているのか、慎重に探る必要があると強調しました。安倍首相も「圧力をかける」とは言っているものの、米朝両国が先に対話してしまえば日本には拉致問題があり、この問題が置き去りにされてはならないので、日本が何らかの形で参画し、中国なども巻き込んで対話の糸口をつかまねばならないとの気持ちがあると指摘しました。

「今の官邸のチーム力が長期政権の秘訣」と分析する岩田さん

「今の官邸のチーム力が長期政権の秘訣」と分析する岩田さん

 岩田さんは、安倍首相とトランプ大統領との緊密な関係は、日中関係にもポジティブな影響を及ぼしていると述べました。安倍首相が中国の「一帯一路」への対応について、「対峙」から「協力」へ方針を転換するなど具体的な行動で示したことが昨年の日中首脳会談につながったとし、日中韓首脳会談が今年4月に開催されるか、日中シャトル外交が復活するかが、今後の日中関係の試金石になるとの見解を披露しました。

 岩田さんは日ロ関係に関し、16年12月の山口県長門市での日ロ首脳会談の時点では、プーチン大統領は安倍首相の残り任期では両国間の問題解決は難しいと見ていたが、昨年衆院選で大勝して政権基盤が整ったことで、プーチン氏の対応が変わってきたと述べました。ただ、今年4月の日ロ首脳会談以降、平和条約交渉が進むかどうかについては「ロシア政府の陣容が変わることもあり、やや時間がかかるのではないか」と慎重な見方を示しました。

 これに関連して岩田さんは、日本の立場を主張できる外交、基本的価値のルールメーカーになる外交を展開するには、国内政治の安定が必要だと主張。

 昨年、森友・加計問題で内閣支持率が下がった以上、首相はこの問題について明確な説明をすることで、事態を終息させ、政策を進める努力が求められるとの考えを示しました。

 最後に、現在の首相官邸の特色に触れて、第1次政権では「政策論争が人間関係の悪化に直結してしまい、官邸崩壊と言われた」のに対し、第2次政権では「政策で対立しても人間関係には持ち込まない。対立しても解決策を見出すための議論をやめない」などチーム力、復元力が上がってきたとして、「今の官邸のチーム力が長期政権の秘訣になっているのではないか」と分析しました。

岩田さん 講演後の質疑応答では、「日米関係、安倍・トランプ関係を見ていると、言うべきことを言っていないのではないか」「メディアへの対応はうまい方向へ回ってきているのか」「憲法改正は本気なのか」など活発な質問が出ました。

 これに対し岩田さんは「パリ協定離脱や貿易不均衡問題などについて、マルチやバイ会談の場で、ファクトに基づいた主張をしている」「中間選挙を控え、日米関係はこの1年は最もきつくなるのではないか。だからこそ、中国、ロシアなど各国との関係を築くことで、対米関係をうまくマネージしなければならないと考える」「通商交渉、貿易ルールなどの議論では、中国等も巻き込みながら、アメリカと渡り合う戦略も必要ではないか」「第2次政権発足当初は、すべてのメディアと平等に対応し、どの社(のインタビュー)も受け付けていた。ところが、15年ごろから変質したのではないか。当初の方針に立ち返って再検討が必要ではないかと思う」「憲法改正については、当初、安倍総理が言及する内容が定まらない面があった。政権が長期化する中、森友・加計問題という、いわば個人的な問題により内閣支持率が下落した。このため、安倍首相は、政治家が掲げる政策の‘本丸‘とも言える憲法改正への意欲を示し、勝負に出る!という覚悟を示すことで、打開を図ろうとしたのではないか。去年5月、憲法改正を前面に打ち出したが、その後、スケジュールありきでない、党の議論に任せると表現に変化が見られた。緊急性をもって実現したかったのは、安保法制だったのではないか。また憲法改正は自民党の党是なので、論理的には、安倍首相自身の悲願というより、どの総裁にとっても責務ということになる。こうしたことが、言葉の変化の背景にあるのではないか」などと答えました。

■岩田氏の略歴
 千葉県出身。東京大学法学部卒。1996年4月、NHK入局。初任地の岡山放送局で岡山県警本部や岡山地方検察庁を担当。2000年7月に政治部。森内閣と小泉内閣で総理番を務めた後、法務省や自民党・清和会、外務省、また安倍官房長官や安倍幹事長番を担当。外務省では、北朝鮮をめぐる6か国協議や、対中国、対ロシア、対米外交などを取材するとともに、サミット、APECなど多数の国際会議を取材。2013年から解説委員を兼務し、「時論公論」や「解説スタジアム」などに出演。「BS国際報道2017 日本外交ここに注目」で毎週金曜に解説を担当する。