(3)ビジネスモデルを重層化せよ…編集者・久保田大海さん

■情報はスロー、コンテンツはファスト

久保田大海

編集者・久保田大海さん

 行動経済学者のダニエル・カーネマンは、著書『ファスト&スロー』の中で、脳内の情報処理に関して「理性はスローであり、感情はファストである」と書きました。メディアを構成する要素「インフォメーション(情報)」と「コンテンツ」も、これと深い関係があります。

 情報は今やAIが自動生成する時代ですが、これは理性の領域にあり、スローです。かたやコンテンツは、表現手段を用いて人間のクリエイティビティーが仕立て上げる音楽や小説、写真、動画など「作品」と呼ばれ、人間の感情に強く影響するファストな存在です。

 広告はアナログ時代、一方通行でシンプルなブランドコンテンツでした。しかしデジタルになると円環的となり、最適化・ターゲティングされて情報に置き換えられます。これを仕切るのが「プラットフォーム」と呼ばれる大きなプレーヤーです。デジタルで重要なのはセンシングとマッチングで、検索履歴や位置情報、購買行動などがセンシングされ、マッチング技術で最適化されます。行動データなどインフォメーションの量は、新聞社などパブリッシャーに比べてプラットフォームの方が多く、強力な存在といえます。久保田WASEDA_2018-09-027

■課金でもカギ握るアグリゲーションの力


ニュースでもサブスクリプション方式の課金が増えています。新聞は記事を紙に印刷し、有料で届けてきましたが、デジタルでは課金ゲートが必要だからです。ペイウォール、メーター方式、機能制限方式、プレミアム会員など様々な手法がありますが、ここではアグリゲーション、集めることがカギになる。ニュースは無料で提供されるケースが多く、これが大きな課題ですが、雑誌のアグリゲーションサービスは月額400円、音楽や動画は月千円ほどです。サービスの価値は仕入れ数によって決まるため、在庫やコンテンツを持つ側が強くなります。久保田WASEDA_2018-09-083

 ニュースは情報に近い存在で、SNSの身近な人の近況などと競合し、侵食されています。ニュースの製作プロセスは複雑で、取材・編集・印刷を経てユーザーに届きますが、SNSの近況にはそのプロセスがなく、投稿すれば終わり。コストが非常に低く、プラットフォームはこれをタダで使うため、パブリッシャー側が不利です。

 ビジネスは伸び盛りの時は垂直統合されやすく、縮小期には水平分離しやすい。取材活動は今後、集約・合理化され、SNS情報をカギにコストを下げていくでしょう。編集や印刷、配達なども今後どんどん集約・合理化される可能性があります。久保田WASEDA_2018-09-107

■ライブ配信で機能するギフティングモデル

 興味深い事例を紹介しましょう。テクノロジーが可能にしたライブ配信の投げ銭モデルビジネスです。「ショールーム」や「17Live」など様々なアプリがあり、そこではギフティング(贈与)エコノミーが形成されています。ライブ配信者(ライバー)に対し、ユーザーがギフト(投げ銭)することで稼げる仕組みができ、ビジネスが成り立っているのです。

 「あーるちゃん」というライブ配信者がおり、彼女は推定で月に2千万円も配信で稼いでいます。彼女の得るポイントを分析すると、全体の95.7パーセントが、わずか5人による支払いです。残り800人は、そのおかげでタダでライブを見られるエコノミーなのです。お金持ちがパトロンとして投げ銭を与える、かつてのメディチ家やタニマチ文化のような仕組みです。この寄付方式が、もしかしたらジャーナリズムやニュースを今後支えるのかもしれなません。久保田WASEDA_2018-09-115久保田WASEDA_2018-09-116

 ただ、それをどうニュースで構築するかが難しい。ギフティングモデルは感情(ファスト)の世界、コンテンツ分野でこそ成り立ちます。情報すなわち理性(スロー)の世界では成り立ちにくいのです。新聞社の皆さんは、今後いかに愛されるかが重要です。多くのファンを持つスター記者がいたら、彼らに対してギフトを投げさせなければいけません。ilovepdf_com-8

 エンタメ業界は感情の世界なので、面白いことが起きやすい。多くの人が無料でライブ配信を楽しめるという意味で、「富の再配分モデル」かも知れません。スマホゲームでは、時間がある人はアイテムや経験値を手に入れてステージを上げますが、時間がない人は時間を短縮するためアイテムを買い、ガチャを回します。広告モデルは時間とお金のトレードオフで、一方サブスクリプションは価格が同一な、パッケージメディアのマスメディアに近いモデルです。

 結局この二つをミックスさせ、ビジネスモデルを重層化させる方向性こそが、今後は重要になると思います。komugi.jpというサイトで記事を書いていますので、ぜひご参照いただければ幸いです。

▼第2部・ディスカッションの詳細はこちら。