(2)音源がニュース化する時代…音楽ジャーナリスト・柴那典さん

■デジタルでV字回復した音楽産業

柴さん

音楽ジャーナリスト・柴那典さん

 デジタルシフト以降、音楽ビジネスはV字回復しています。デジタル化が進む中で、音楽は常に最も早く、テクノロジーによる変化の波に直面してきました。日本の音楽業界の状況をみると、レコード総生産量がピークとなった1998年から20年間、売り上げが落ち続けています。一方で、ライブ市場は20年にわたり上昇傾向にあり、「音楽業界は音源ではなく、ライブで稼ぐ時代だ」と言われてきました。

 しかし、これは5年前の常識です。海外を中心に、デジタル化の潮流を追い風に音楽ソフト市場の売り上げが回復し、ビジネスモデルが再構築されている。そして僕の仮説は、音源が「ニュース」として収益を上げる時代に入っている、というものです。

 この潮流を支えているのが、Spotify(スポティファイ)やApple Music(アップル・ミュージック)など、月額の定額制で音楽が聞き放題となるストリーミングサービスです。IFPI(世界音楽産業連盟)がまとめた世界の音楽ソフト市場の推移によれば、CDやレコードなどのパッケージメディアと、ネットのダウンロード音源の売り上げは下降傾向にある。それに対し、ストリーミングの売り上げはApple MusicやGoogle Play Music(グーグルプレイ・ミュージック)など、大手IT企業がサービスを始めた2015年以降、劇的な伸びを示しています。

出典:IFPI Global Music Report 2018 (https://www.ifpi.org/downloads/GMR2018.pdf)

出典:IFPI Global Music Report 2018

https://www.ifpi.org/downloads/GMR2018.pdf

■リスナーが音楽に金を払い始めた

 ストリーミングサービスの好調が下支えとなり、音楽ソフト市場全体の景気は、2014年に底を打ちました。産業全体の収益の割合は、2017年にはストリーミング38%、ダウンロード16%と、デジタル領域の売上が過半数となっています。特にダウンロードの収益が、CDやレコード以上に減っているというのが、2017年に明確に出てきた変化です。市場のすう勢だけ言うと、ストリーミング市場が大きくなってダウンロードがかなり縮小している。この傾向は去年だけのトレンドではなく、ここ数年続いており、おそらく今後も続いていくでしょう。

出典:IFPI Global Music Report 2018

出典:IFPI Global Music Report 2018

 音楽業界の歴史は、「インターネット以前」「インターネット以降・スマートフォン以前」「スマートフォン以降」の3期に分類できます。そして音楽業界の広告収入が、利用者の支払い金額を上回っていたのは、「インターネット以降・スマートフォン以前」の約10年間でした。これは非常に興味深い点です。2000年代に入り、コンテンツにお金を払わない「フリー」の時代が来ると喧伝されたものの、2010年代以降のスマートフォンとストリーミングサービスの登場、そしてライブ市場の好調によって、利用者が音楽にお金を支払う状況が再び生まれているのです。

■「売る」から「再生回数を増やす」へ

ilovepdf_com-5 のコピー ダウンロードとストリーミングには、本質的な違いがあります。ダウンロードはネット上にある「コンテンツ」を購入するのに対し、ストリーミングは音楽を聴ける「環境」にお金を支払っている。海外では、サブスクリプション(月額課金)型のストリーミングサービスに多くの音楽レーベルが参加しており、サービス間で聴ける音楽に大きな差異はありません。そういった状況下で、レコメンドの精度やユーザーインターフェイス(UI)などが、選択の決め手になっています。同じサブスクリプションであっても、コンテンツにお金を支払う新聞のサブスクリプションモデルとは、異なるものです。

 ストリーミングは再生回数によって収益が決まるため、音楽を作る側には、「たくさん聞かれるような曲を作ろう」というモチベーションが働いています。「たくさん売ろう」というより、「再生回数を増やそう」という動きが起きているのです。定額制のストリーミング配信では、1再生0.4円から0.6円の収入が得られるといわれ、アメリカではヒット曲は何億回も再生されます。従来のCD販売よりも大きな収益を生むことが可能になり、「音楽を売らない」ビジネスモデルが確立しきました。CDなどを出さず、ストリーミングのみで配信するアーティストも少なくありません。


ストリーミングサービスで集積したデータを、マーケティング活動に生かす事例も見られています。曲ごとに、どこの都市では何人が聞いているといった情報を、アーティストが簡単に見られる仕組みもあります。このデータを興行ビジネスに活用して、集客不足に陥ることが劇的に減りました。柴・9月1日早大-23

 音源で収益を上げつつ、そのデータを活用することで、興行がバクチではなくなりつつある。今やアーティストは二重の意味で、ストリーミングを活用しているのです。

(3)ビジネスモデルを重層化せよ…編集者・久保田大海さん