メディアの将来像を考える会第89回例会は2018年9月1日、早稲田大学26号館302教室で、ニュースメディアの経営にフォーカスしたシンポジウム「テクノロジーはニュースを救うか?〜他メディアのデジタル化から未来を大予測!」を開催。講演とパネルディスカッションが行われた。

 第1部では、ニュースを機械化することで「負のスパイラル」を断ち切ることを目指すJX通信社の米重克洋さん、ビジネスモデルが激変した音楽産業の最新事情に詳しいジャーナリストの柴那典(とものり)さん、デジタルメディアと既存メディアの未来を考察するNHK出版編集者(当時)の久保田大海(ひろみ)さんの3人が講演した。3人の講演要旨を紹介する。

(1)機械化で報道コスト削減を…JX通信社代表取締役・米重克洋さん

■報道産業にのしかかる三つの課題

米重克洋

JX通信社・米重克洋さん

 報道産業には大きな三つの課題があります。まずはコストと働き方の課題。労働集約型の産業構造からの脱皮です。次はデジタルシフトの遅れ。最後は、コンテンツの質と付加価値が問われている点です。

 労働集約型の産業構造のままでは、収益が細ると、コストを減らすために人間の数を減らすか給料を減らすか、両方かという選択に迫られます。人間の数を減らしても全体の仕事の量は減らず、結果として1人当たりの労力が増え、過労死などの深刻な事態に至り、優秀な人材を引きつける力が損なわれます。

 驚異的な時間吸引力を持ち、数十秒の細切れの時間も接触時間に変換してしまうスマートフォン。そして、消費者の滞在時間を蓄積し、最適化するプラットフォーム。デジタルシフトの遅れは、この二つに取り組み切れなかったことから生じています。ニュースだけではないコンテンツを持った競争相手が、特にデジタルメディアの分野で激増し、コンテンツの質の向上が迫られています。1809米重さんファイル‚™-17


しかし、競争のため投資をしなければならないのに、その体力は損なわれている。悪循環を断ち切る解決策は、テクノロジーしかありません。自動化と機械化を進めてコストを減らしながら、収益も増やすという課題を同時に解決するには、これ以外ないのです。消費者の滞在時間を拡大し、広告あるいは課金収益といった高いリターンを目指して、新しい流通構造を実現する。収益を最大化し、その余力を競争のための投資に転じていくことが大切です。

■速報、アプリ、自動世論調査のサービスを提供


我々が提供するサービスは、速報のFASTALERT(ファストアラート)、ニュースアプリのNewsDigest(ニュース・ダイジェスト)、自動世論調査の三つです。1809米重さんファイル‚™-09

 FASTALERTは事件、事故、災害などの緊急情報を、目撃者や当事者によるSNS投稿を検知することで、リアルタイムで把握するサービスです。すでに報道機関や警察、消防が顧客になっていますが、武器はAIです。ツイートが流れてくると、テキストや画像を解析し、どこで何が起きているのかを表示します。従来の取材源である警察や消防よりも、情報が早く入手できる点が重要です。


利用者は、何かが起きているうちにスマートフォンなどで情報を受け取れば、すぐ行動に移せる。道路で事故が起きているなら迂回したり、火事が起きているなら家族の安否を確認したりすることが可能です。6月の東海道新幹線車内での死傷事件は、夜9時45分ぐらいに発生しましたが、FASTALERTが第一報を配信したのはわずか5分後でした。2月の佐賀での陸上自衛隊ヘリ墜落事故は、防衛省が当初、着陸炎上もしくは不時着したと説明しましたが、墜落の目撃証言や映像がSNSにどっと出てきて覆りました。1809米重さんファイル‚™-36

 二つ目のNewsDigestは速報のプッシュ通知もあるニュースアプリで、国内外のニュースをAIが自動検知して配信するサービスです。緊急情報専門のレスキューナウと連携し、FASTALERTで出てきた火事や事故などの情報をいち早く確認し、その地域のユーザーに届けます。

 三つ目の自動電話による世論調査は、世論調査や選挙の情勢報道を、「クラウドRDD」と私たちが名付けた方式で行います。機械を利用し、低コストかつ回答率が高い自動調査です。報道機関にとって、選挙情勢報道は多くの金がかかる割りに収益に見合わないため、最近は調査回数が減ったり、規模が縮小されたりしています。

 しかし、我々が開発した情勢調査は、回答率50パーセントから70パーセントと、従来の情勢調査に比べて高く出ています。例えば、昨年の衆院選比例東京ブロックや東京都議選で、事前に投票率を実際の数字と極めて近い数字ではじき出しました。特に東京都議選では、報道各社の情勢調査が直前まで、自民党と都民ファーストの争いと予想していましたが、我々のトレンド調査は、都民ファーストがずっと上位に定着し、最終盤になって共産党が跳ねてきたことを正確に把握していました。

■目指すは「仮想通信社」

ilovepdf_com-3 のコピー 通信社のビジネスを、いかに機械的に再構築できるか。一言で言うと、我々は「仮想通信社」を目指しています。支局もなく記者もいませんが、いかに機械で幅広くニュースの発信を支える取り組みができるか。我々がコア・テクノロジーとする自然言語処理の分野では、近年非常に進歩が見られ、開発効率もオープンソースやクラウドの普及で、日々レベルアップしています。機械でできることは機械に任せ、人間しかできないことに集中する。それが議論できる状況になったと言えます。

 報道産業にはさまざまブレイクスルーがありました。ロイターが創業された1851年、それまで伝書鳩を利用したアナログな手段だったのを、電信によって速報性を爆発的に改善させました。エポックメイキングな技術の進展で、報道産業はその形を大きく変えてきた。その機会はこれからも、必ず訪れると信じています。

(2)音源がニュース化する時代…音楽ジャーナリスト・柴那典さん