(2)闘って勝ち取った音楽の権利

■プラットフォームと個別交渉してきた新聞社■

松井:
シンポ4人1 新聞社は各社が編集から印刷、配達までのプラットフォームを持つ垂直統合モデルで成功してきたこともあり、Yahoo!などとの交渉も別個にやってきました。新聞協会という業界団体はありますが、紙の新聞の組織という側面が強い。また、ネットの売上が紙に比べて小さ過ぎるため、担当のデジタル部局で対応してきた面もあります。ただ状況は変わってきており、「ニュースまとめ」のプラットフォームなどに対して、新聞社同士が一緒に交渉する気運も出ています。

米重:
 編集権をプラットフォームに移譲してしまった今となっては、対抗は難しい面もあります。ただ、うまくやっているのが「NewsPicks(ニューズピックス)」で、MAU(月間アクティブユーザー)当たりの収益性が非常に高い。彼らの価値の源泉はコミュニティーです。ビジネスマンに特化し、若く向上意欲の高い人々がユーザーなので、そこに価値を感じる広告主がいる。メディア自身が流通機構やミニプラットフォームを作ることも、あり得るのではないでしょうか。

久保田:
 ただ、NewsPicksには納得いかない人も多いのでは。基本的にはピッカーという専門家が、ニュースを選ぶコミュニティです。勝手にコンテンツに乗っかり、勝手にタイトルと3行要約を載せています。ピッカーのコメントは新聞の評論機能に近く、専門家をフォローしておけば旬のニュースと評論が無料で読める非常にうまいやり方です。ニュースの2チャンネルまとめが機能するのは、コメントがコンテンツになっているから。ニコニコ動画も同じで、コメントが理性ではなく感情を動かすためうまくいっているのです。

■なぜネットのニュースは無料なのか■

質問者:
 なぜ音楽は有料なのに、米重さんのNewsDigestは無料なのか。メディアにとっては商売敵とも言えるのでは。

米重:
 NewsDigestの場合、記事のほとんどがノアドットというプラットフォームによるものです。これは共同通信を中心に、200ほどのメディアが集まって見出しとリンクを提供するもので、それをキュレーションして発生した収益を、NewsDigestとメディアが取るモデルです。ここでは商売敵ではなく、利害は一致しています。

質問者:
 有料課金ができない理由は、無料で見られるアグリゲーションがニュースをいくらでも作れ、広告で回ってしまうためでは。それを批判する訳ではないが…。

久保田:
 どんどん批判しましょう(笑)。柴さんに聞きたいのですが、YouTubeは今は無料モデルで、1再生0.04円から0.06円の収益です。しかしSpotifyだと、0.4円から0.6円と10倍も高い。ビジネスモデルの差で大きな収益の差が出ている訳ですが、ニュースではなぜこれがないのでしょう。

柴:
ilovepdf_com-5 のコピー 音楽の業界団体IFPI(世界音楽産業連盟)は、ここ3年ほどYouTubeと激しく闘ってきました。YouTubeは設立当初から、違法コンテンツが山ほどアップロードされてきた場所で、「音楽は有料」ということが、10年前には全く成立していませんでした。その後、YouTubeに公式のミュージックビデオが公開されるようになり、「コンテンツID」という仕組みが導入され再生回数あたりの収益がアーティストやレーベル側に還元されるようになりました。しかし、つい最近までYouTubeには無料の広告モデルしかなく、そのため1再生0.04円から0.06円と低い収益になってきた。IFPIは、これを「バリューギャップ」と名付けて問題視してきました。

松井:
 YouTubeのトップにいるリオ・コーエン氏は、元々は業界団体側の先頭で闘ってきた人だったというお話でしたね。

柴:
 YouTubeが立ちあがったばかりの2006年ごろ、レコード会社や権利者の多くは「違法アップはけしからん、全部シャットダウンせよ」と言っていました。しかし、ワーナー・ミュージックCEOだったコーエン氏は「再生された分の収入をくれればいいよ」と言ってYouTube側との交渉をまとめた人です。彼は昨年YouTubeに移りましたが、それはいわば「バリューギャップ問題」に対応するためです。2018年からYouTubeは「YouTube Music Premium」「YouTube Premium」という月額課金で広告を非表示にするサービスを始めました。つまりSpotifyと同じフリーミアムモデルになったわけです。つまり、デジタル領域と音楽権利者団体との橋渡しを10年間ずっとやってきた彼のようなキーマンがいる。ニュースはなぜお金を取れないかというと、プラットフォームとガチで戦う人や権利団体が存在しなかったからではないでしょうか。

■「ニュース産業も闘うべきだ」■

久保田:
 柴さんの答えは「闘え!」と聞こえたんですけど(笑)。

柴:
 音楽では今も闘っています。今も日本には、音楽を無料で聴ける違法アプリがたくさんあります。でも、そのたびに権利団体が権利侵害を排除し続けてきた。そして、それ以上に重要なのは、違法サービスや違法アプリよりもユーザーにとって使い勝手がよく、無料でも使えるフリーミアムモデルのサービスを提供してきたことです。そういう歴史があり、それはもうしつこく闘ってきた結果、今があるのです。権利侵害を自動で排除する音声フィンガープリントなどの技術もどんどん開発されています。

米重:
 海外では闘っている事例もあります。スペインではGoogleニュースなどに使われるのを拒否して、EUに法制定を求めたところ、プラットフォーム側が遮断して記事へのトラフィックが激減したことがありました。闘っても厳しい面もあるのです。朝日、読売、産経などの新聞記事がまとめて1か所で読めるような仕組みは、プラットフォーム側が作らないとなかなかできないのではないでしょうか。

(3)情報とコンテンツ、異なる価値・読まれ方