(1)デジタルでV字回復、音楽産業からニュースは学べるか?

スクリーンショット 2019-01-10 21.08.15 後半のパネルディスカッションでは、3人の講演内容をベースに、デジタルで驚異的なV字回復を見せる音楽産業の事例と照らし合わせながら、情報とコンテンツ、有料と無料、パブリッシャーとプラットフォームなど、せめぎ合う様々な軸について語ってもらった。(司会は招へい研究員の読売新聞専門委員・松井正)。

■機械が情報領域を代替、記者はコンテンツを■

松井:
 ニュース企業は厳しい経営状況にありますが、コストの重圧に苦しんでいると米重さんはお考えですか。

米重:
 我々はSNSから事件・事故の情報を迅速に拾う機能を、報道機関にサービスしています。これを人海戦術で24時間運用するのは非現実的なので、機械による代替策を提示しています。

久保田:
 Yahoo!が登場した時、社内にはネットサーファーがたくさんいて、人力で情報を分類していましたが、その後Googleが検索エンジンを機械化し、作業を代替した歴史を思い出しました。人力でやることを機械が代替するのは、インフォメーション(情報)の領域で起こりやすく、その中心にいるのがエンジニアです。

松井:
 全国紙の記者は地方支局でまず、「サツ回り」(警察回り=事件記者)を担当します。朝、昼、夜と県内の主な警察署に電話をかけ、街でサイレンを聞いたら警察や消防に確認するなどして、発生を警戒したものです。これらの仕事は、いまやSNSの得意分野かも知れません。一方で、ニュースには掘り起こすものもあります。記者が取材して書かないと世には出ない種類の記事を、多くの記者は本当は書きたいと思っています。

米重:
 久保田さんは情報とコンテンツに分けて話されましたが、コンテンツは調査報道など人間でなければ取材できないもの。一方、情報に分類されるストレートニュースなどは、機械でコストを下げられる可能性があります。記者会見で大勢の記者が、同じ内容をパソコンで書き起こす場面を見ますが、これらを通信社に任せ、その分人間にしかできない取材を手がけても良いのではないでしょうか。

■「人は環境に金を払う」■

久保田:
 音楽分野では月に千円ほどで、楽曲を多数集めたアグリゲーションサービスが提供されていますが、ニュースの多くは無料です。課金はできないのでしょうか。

米重:
ilovepdf_com-3 のコピー それができれば業界の課題は大きく減りますが、ネットの最初の時点で「ニュースは無料」との認識が、消費者に染み付いてしまいました。柴さんは「ストリーミングは環境、ダウンロードは行為」と言われた。確かに、課金で成功しているのは環境(私は「体験」と呼びますが)で金を取るものが多く、コンテンツに課金してはいません。クックパッドのレシピ1本1本ではなく、レシピを人気順に並べることに、人はお金を払います。ニュースでこれが可能になれば、課金の可能性もあると思います。

柴:
 多くのリスナーは「CDを買うより千円聞き放題の方が得だ」と価値判断しています。Spotify(スポティファイ)とApple Music(アップル・ミュージック)は似たサービスですが、実は根本的に違う。Spotifyはフリーミアムモデルで、アプリで全曲を無料で聞けますが、曲順を選べません。創業者のダニエル・エクが音楽好きで、無料で使い勝手の良いサービスをテクノロジーで作ることを目指したのです。

松井:
 かつてニコニコ動画の川上量生(かずお)会長は、著作権保護のDRMが有料サービスの使い勝手を悪くしている以上、違法利用に勝てないと言いました。使い勝手が良いものが勝つと。世界の新聞社はかつて、ニュースを無料で大量にネットに出しました。日本の新聞社はかなり抑えたものの、総量は大きく、その後Yahoo!(ヤフー!)は大量のニュースを集めて出し始めた。有料のアグリゲーションサービスは日本にまだありませんが、実はオーストラリアの「inkl(インクル)」という会社は、良質なニュースを月額の読み放題モデルで提供しています。

久保田:
 情報とコンテンツでは、お金の払い方が違う。情報では無料広告モデルが強く、コンテンツでは課金が強いのです。紙の新聞の購読料ビジネスは、ネット以降の情報爆発で弱い面が出ています。雑誌も同じで、生活情報や趣味の領域では無料が侵食しています。しかし、「作品」と呼ばれる音楽や漫画などは課金しやすい。漫画はグローバルにも行けるし、感情的に勢いで読めるファストな存在ですから。

■パブリッシャーはプラットフォームになれるのか■

松井:
 課金プラットフォームを、パブリッシャーが一緒になって作る可能性はあると思いますか。

柴:
 パブリッシャーはプラットフォームを持たないほうがいいと、僕は思います。「ユニバーサルミュージック聞き放題」「ソニーミュージック聞き放題」は売りにくい。音楽分野では長く、権利団体がまとまってプラットフォームと交渉してきた歴史があります。グローバルな音楽業界においてメジャー系レーベルは「ユニバーサル」「ワーナー」「ソニー」の大手3社に統合されました。

 それ以外の独立系レーベルの多くは「Merlin(マーリン)」という国際的な権利団体が委託を受け交渉や分配を担っています。そして、さらに小規模なインディーズ系レーベルや独立系ミュージシャンは「TuneCore(チューンコア)」というサービスを使っています。これは楽曲を登録すると、Apple MusicやSpotifyなど様々な配信サービスに、曲を提供してくれるものです。誰でも自分の曲を世界中の配信サイトで出せるこのようなサービスを、アグリゲーションと呼んでいます。たとえばTuneCoreでは年間5千円弱の利用料を払えば1枚のアルバムを発表できて、その再生回数による収益を100%得られます。

米重:
 これは歌手志望のような人でも使えるのですか。

柴:
 使えます。「メジャーデビュー」という言葉が、今や意味をなさなくなった。ひどい曲を作るミュージシャンでも、安い金でSpotifyに曲を載せることができるようになったからです。ある種ユーチューバーに近いですが、彼らはYouTubeに隷属せず、様々なプラットフォームに一斉に出せるメリットがあります。

(2)闘って勝ち取った音楽の権利